はり・きゅう(鍼灸)とは
はり・きゅう(鍼灸)とは
はり・きゅう(鍼灸)院では、患者さんが来院されたら、最初にその症状、痛みの具合、部位、経過、原因その他の問診をした後に、鍼灸医療独特の触診、脈診、舌診、聴診等の検査をします。さらに、西洋医学的検査も併用して誤診の無いように心がけます。
鍼灸では古来より診断、治療等については、いろいろな流派があり、各鍼灸師それぞれの方法で行われます。流派に付いては省略しますが、その概要についてご紹介します。
はり(鍼)の施術
きわめて細い鍼を経穴(ツボ)に刺入します。
最近ではステンレス製(長さ約15mm~150mm、太さ直径0.1mm~0.3mm)が主流になっています。刺入方法は、主に管鍼法が用いられ円形の金属または樹脂製の筒を使って刺入します。中国で行われている方法と同じで、筒を使わずに鍼を親指と示指でつまみ刺入する方法も行われています。
経穴(ツボ)に刺入した鍼は一定の刺激を加えたり(鍼を上下したり回旋、振動させたりします)、5~30分間刺したまま置いておいたりします。刺入した鍼に微弱な低周波パルス通電する場合もあり、痛みや筋肉のコリ、血液循環の促進に有効な場合もあります。
その他、刺入せずに皮膚に接触させたり、押圧させたりする方法もあり、小児鍼として乳幼児の夜尿症,夜泣きなどに効果があります。
鍼の消毒は、オートクレーブという高温高圧式滅菌装置を用いて行われていますが、現在では一回限りの使い捨て鍼(ディスポ鍼)を使用する鍼灸院がほとんどで、感染症の心配は有りませんので安心です。
灸の施術
艾(もぐさ)を用いて経穴(ツボ)に熱刺激を加える方法で一般的に「お灸」と言われています。その方法には艾を直接皮膚の上に乗せて着火させる直接灸と、艾と皮膚の間を離して行う間接灸とに大別されます。
直接灸の艾の大きさは糸状,米粒大の細いものから小指大のものまであります。施灸後は、皮膚に水泡ができたり灸痕が残ったりすることがあり、施術前に予め十分な説明を患者にしておく必要があります。あまり熱い刺激を好まない人には行わないことが多いです。
間接灸は、艾と皮膚の間に空間を作ったり、塩や薄く切った生姜・にんにくなどの熱の緩衝材を間に入れたりして温和な熱さにしますので気持ちがよいと感じるでしょう。
その他に、灸頭鍼といって、刺入した鍼の頭(先端)に艾を取り付けて点火するという方法もあります。施灸や温灸はご自宅でも出来ますので、鍼灸師に指示を受けてやってみるのも良いでしょう。
その他の補助療法
鍼灸院により、遠赤外線照射、低周波通電、吸い玉(カッピング)、予防体操(ストレッチ)などの指導を行う場合もあります。
※当院では、遠赤外線照射は扱っておりません。
はり・きゅう(鍼灸)の歴史
鍼灸は東洋医学または漢方医学の一分野で日本の伝統的医療です。起源は中国で、一般に「はり・きゅう」または「しんきゅう」と呼ばれています。鍼灸医学は、日本には漢方薬より先に渡来したと云われています。
細い針を経穴(ツボ)に刺入したり、艾(もぐさ)を燃焼させたりして経穴(ツボ)に刺激を加えて病気を治す技術です。
鍼灸医学が日本に伝わって以来、明治時代の初期までの長い間、漢方薬と共に医学の主流として人々に活用されていましたが、西洋医学の伝来によって徐々に衰退を余儀なくされてきました。明治政府の欧米化政策により日本の医学を西洋医学とする立法が制定され、医学の主流を西洋医学に明け渡すことになりました。欧米化政策以外の衰退の理由としては、東洋医学は内因性の病気には、治療効果が評価されてきましたが外因性のもの(外傷)にたいして効果が遅いことが挙げられます。外傷に対しては、西洋医学の外科の方がはるかに役立ちましたので東洋医学が軽視されたのも無理はありません。
しかし、最近では、公的な医学研究所・医科大学・鍼灸大学や医療機関等で科学的な各種の実験、研究がされて少しずつ鍼灸医学の効果が証明されてきました。それによって、日本をはじめとして米国やヨーロッパ各国でも鍼灸が盛んになってきました。
はり・きゅう(鍼灸)はなぜ効くの?
はり・きゅう(鍼灸)の効果についての研究は、さまざまな研究所や医療機関、鍼灸大学などで意欲的に進められています。
はり・きゅう(鍼灸)刺激と反応
はり・きゅう(鍼灸)の刺激が生体に与えられた時の組織損傷による生体防御機能の反応や金への刺激により筋の過緊張を緩和し、血液循環をよくする刺鍼局所作用などが一般的です。
はり・きゅう(鍼灸)の刺激が自律神経や内分泌系、免疫系等に作用した結果として筋緊張が緩和し、血液及びリンパ液の循環改善作用があり、生体の恒常性(病気を自然に回復させる作用)に働きかけるものと考えられています。
はり・きゅう(鍼灸)刺激を生体に与えた場合の反応として3つの様式があります。
1)はり・きゅう(鍼灸)刺激部位の反応
2)離れたところに起こる反応
3)全身に起こる反応
どこにその反応が起こるか、またどこにその反応を起こすべきかによって刺激部位を選定して治療をおこないます。
はり・きゅう(鍼灸)の刺激が有効に起こるためには、患者の感受性の相違(性別・年齢・体質・経験など)と、刺激量(鍼の選択・手技の選択など)の相関性が臨床上重要となってきます。
はり・きゅう(鍼灸)施術の治療的作用
はり・きゅう(鍼灸)施術の治療的作用は生体の組織、器官の機能の異常を調節し、本来の生理的な状態に回復させる作用であり、疾病の状態と治療目的により以下の諸作用に分けられます。
1)調整作用
組織、器官に一定の刺激を与えて、その機能を調整する作用です。
2)鎮静作用
疼痛のように異常に機能が興奮している疾患に対して、鎮静させる作用です。
3)鎮痛作用
低周波による鍼通電法などを用いて、生体を刺激することによって、もともと生体に備わっている内因性鎮痛機序を賦活させます。生体の特定領域の痛覚閾値が上昇する現象ということになります。
4)防衛作用
白血球や大貪食細胞などを増加させて、各種疾患の治癒機能を促進させ、生体の防衛能力を高める作用です。
5)免疫作用
もともと生体に備わっている免疫機能を高める作用です。
6)消炎作用
白血球を増加させ、施術部位に遊走させます。血流改善により病的炎症を抑え、生体の防衛能力を高める作用です。
7)転調作用
自律神経失調症やアレルギー体質を改善して、体質を強壮にする作用です。
8)反射作用
痛み刺激あるいは温熱刺激による反射機転を介して、組織、臓器の機能を鼓舞あるいは抑制する作用です。
はり・きゅう(鍼灸)鎮痛
中国では数千年来、鍼治療が鎮痛を起こす手段の1つに利用されてきました。1950年代では全手術の80~90%に鍼麻酔が試みられていました。日本でも鍼麻酔は産婦人科領域で試みられており、1954年に赤羽幸兵衛が鍼を無痛分娩に応用しています。その後も西洋医を含め、減痛分娩、後陣痛、月経痛、人工中絶、虫垂切除などへの鍼麻酔の応用が報告されています。
鎮痛効果の解明には次ぎのような諸説があります。
●ゲートコントロール…針刺激が脊髄において痛みを抑制する。
●エンドルフィン…針刺激がモルヒネ様鎮痛物質の遊離を促し、痛みを抑制する。
●末梢神経の遮断効果…針刺激が末梢神経の痛みのインパルスを遮断する。
●経穴(ツボ)の針刺激による痛覚閾値の上昇による鎮痛効果。
●血液循環の改善…筋肉の緊張をゆるめ血行状態を良くする。
はり・きゅう(鍼灸)の適応
はり・きゅう(鍼灸)療法というと、肩こり,腰痛、神経痛、関節炎ぐらいにしか効果が無いように思っている方が多いようですが、その他多くの症状や病気に効果が認められています。
はり・きゅう(鍼灸)の適応<WHO(世界保健機関)>
WHO(世界保健機関)ではり・きゅう(鍼灸)療法の有効性を認めた病気には、次ぎのものが挙げられます。
【神経系疾患】
頭痛・めまい・自律神経失調症・不眠・神経痛・神経麻痺・痙攣・脳卒中後遺症・神経症・ノイローゼ・ヒステリー
【運動器系疾患】
腰痛・腱鞘炎・五十肩・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・関節炎・リウマチ・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)
【循環器系疾患】
動悸・高血圧低血圧症・心臓神経症・動脈硬化症・息切れ
【呼吸器系疾患】
喘息・気管支炎・風邪および予防
【消化器系疾患】
胃腸病(便秘、下痢、消化不良、胃炎、胃下垂、胃酸過多)・肝機能障害・肝炎・胆嚢炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾
【代謝内分秘系疾患】
糖尿病・脚気・痛風・貧血・バセドウ氏病
【生殖、泌尿器系疾患】
性機能障害・膀胱炎・尿道炎・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎
【婦人科系疾患】
生理痛・月経不順・更年期障害・冷え性・不妊・乳腺炎・白帯下・血の道
【耳鼻咽喉科系疾患】
耳鳴・難聴・メニエル氏病・中耳炎・鼻炎・ちくのう・鼻出血・咽喉頭炎・へんとう炎
【眼科系疾患】
眼精疲労・疲れ目・かすみ目・結膜炎・仮性近視・ものもらい
【小児科疾患】
小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、偏食)・夜尿症・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・虚弱体質の改善
頭と目、顔の症状
◎頭痛 ◎片頭痛 ◎耳鳴り ◎難聴 ◎疲れ目 ◎目の充血 ◎鼻水 ◎蓄膿症 ◎扁桃炎
◎咽頭炎 ◎歯痛 ◎顔のむくみ ◎肌荒れ乾燥 ◎にきび ◎湿疹 ◎かぶれ
頚(首)、肩、腕、背中の症状
◎肩こり ◎頚(首)コリ ◎寝違え ◎むち打ち ◎五十肩 ◎関節痛 ◎背中の張りと痛み
◎腕,肩のだるさ ◎肘痛 ◎テニス肘 ◎腱鞘炎 ◎突き指 ◎手や腕のしびれ
足(脚)と腰の症状
◎腰痛 ◎ぎっくり腰 ◎膝の痛み ◎膝関節症 ◎殿部の痛み ◎足のむくみ ◎こむら返り
◎足の疲れと痛み ◎足のしびれ ◎坐骨神経痛 ◎外反母趾 ◎ねんざ ◎打撲
内臓系の症状
◎胃もたれ ◎胃痛 ◎食欲不振 ◎胃酸過多症 ◎吐き気 ◎二日酔い ◎乗物酔い ◎便秘
◎下痢 ◎過敏性腸症候群 ◎口内炎 ◎高血圧 ◎低血圧 ◎気管支炎 ◎喘息 ◎蕁麻疹
◎痔 ◎膀胱炎 ◎アレルギー症
婦人科系の症状
◎生理痛 ◎生理不順 ◎不感症 ◎更年期障害 ◎月経困難 ◎冷え性 ◎つわり ◎貧血
心の症状
◎イライラ ◎めまい ◎不眠 ◎動悸 ◎鬱病 ◎ノイローゼ ◎神経症 ◎自律神経失調症
はり・きゅう(鍼灸)の資格
日本では、はり・きゅう(鍼灸)の施術をおこなうには、はり師・きゅう師の資格が必要です。
はり師・きゅう師の資格は厚生労働省管轄の国家資格です。
はり・きゅう(鍼灸)専門学校やはり・きゅう(鍼灸)大学等の教育機関で国家が認めたカリキュラムを一定期間(3年もしくは4年)受けて、各種専門医学及び専門技術の習得をして卒業試験に合格したのち、さらに国家試験に合格しなければ資格は与えられません。
資格取得後も各種の学会や研究会、講習会において卒後教育に励まなければなりません。
そのため、学問、技術ともに一定の水準にありますので、安心して鍼灸の施術をお受けください。